文化連とは
協同組合には、農業協同組合(農協・JA)、漁業協同組合、森林組合、生活協同組合、労働者による協同組合、中小企業の協同組合などさまざま種類があります。組織形態も事業の内容もそれぞれ異なる特徴をもっていますが、協同組合は、共通の目的を持った人同士が自発的に集まって作る経済組織であり、相互扶助の精神のもと、お互いに助け合う組織という点で、共通しています。
国際協同組合同盟(ICA)の『協同組合の定義・価値・原則 -「協同組合のアイデンティティに関するICA声明」1995年』では、「協同組合は、共同で所有し民主的に管理する事業体を通じ、共通の経済的・社会的・文化的ニーズと願いを満たすために自発的に手を結んだ人々の自治的な組織である。」と定義しています。
元玉川農協組合長で、本会の会長として長きにわたりご尽力いただいた、山口一門氏は著書『いま農協をどうするか―むらの仲間とともに』で、協同組合の本質をこう述べています。
「農協が作られた目的は、農民の営農や生活のすべてを協同しようというものではない。個人ではどうにもならない問題と個人でやるより協同したほうがうまくいくと考えられる問題を、協同で処理しようとするものである。その組合員が必要だと考えて、協同してひとつの仕事をする。組合員が協同することによって起きてくる仕事、それを農協の事業というのである。」
協同組合は、株式会社とは異なる点が多くあります。協同組合を組織しているのは、一人ひとりでは経済的に弱い立場にある農業者・漁業者・森林所有者、あるいは勤労者・消費者・小規模の事業者です。自分たちで元手(出資金)を出し合い、組合員となって事業を利用し、組合員として一人一票の投票権と決定への参加権をもち運営に関わります。 協同組合の目的は、事業の利用を通じて組合員の生産や生活を守り向上させることにあり、協同組合自体の利潤の追求を目的とはしていません。
これらの組合員による、事業体への「出資」、事業の「利用」、経営への「参加」という三位一体が協同組合の最大の特徴といえ、そのために私たちは組合員の民主的な参画(民主主義)を大切にしています。
協同組合と株式会社の違い
協同組合 | 株式会社 | |
出資者 出資の目的 |
組合員(自然人が基本) 事業の利用 |
株主(投資家・法人など) 利潤の追求 |
利用者 | 組合員 | 一般消費者・企業 |
運営者 議決権 |
組合員とその代表者 1人1票制(民主的な運営) |
株主の代わりに運営する経営者 1株1票制 |
日本では、協同組合に延べ1億584万人超(※1)が組合員として加入しています。業種は農林水産業・購買・金融・共済・医療・福祉・就労創出・旅行・住宅など多岐にわたり、事業収益は35兆3,188億円(※2)にもなります。
世界の協同組合が集う国際協同組合同盟(ICA)には、109か国から312の協同組合が加盟しており、加盟組織の組合員の総数は約12億人にも及びます。(2018年10月時点)
協同組合のルーツはさまざまあります。主なものとして、1844年、イギリスの工業都市マンチェスターの北東にあるロッチデールという町で誕生した「ロッチデール公正先駆者組合」があげられます。イギリスでは世界に先駆けて産業革命が起こり、生産が飛躍的に増大する一方で、工場で働く人々は低賃金・長時間労働を強いられ、常に失業の不安にさらされていました。資本主義の横暴に抗して、自らの手でより良い社会を生み出そうと28人の労働者(先駆者)によってロッチデール公正先駆者組合がつくられました。購買高による剰余金の分配、組合員の平等(一人一票制)、組合員の教育促進など「ロッチデール原則」と呼ばれる運営原則が定められ、これらは今日の私たちの協同組合原則に受け継がれています。
日本では、江戸時代の大原幽学や二宮尊徳(二宮金次郎)などの実践に協同組合思想の芽生えを見ることができます。協同組合が全国的につくられるようになった契機に1900年成立の産業組合法があります。1919年には島根県青原村で世界初の協同組合による医療事業が開始されました。戦後の農協は、前身である産業組合や農業会が、アジア・太平洋戦争で国家統制の代行機関となった痛恨の反省の上に立って再出発しました。
今日のグローバル化の進展や新自由主義的な経済政策・規制緩和によって生み出される「格差」や「自己責任」といった弊害や矛盾、さらには頻発する大規模自然災害や新型コロナ禍の現代的視点においても、150年以上前に誕生した協同組合のしくみは、きわめて重要な役割を持ちます。
2012年は国連が定めた「国際協同組合年」として、協同組合の価値が再認識された年となりました。これは、世界が抱える貧困、金融・経済危機、食糧危機、気候変動などをはじめとする現代社会の重要課題の解決に向けて、協同組合が大きな役割を果たすことを期待したものです。日本でもさまざまな協同組合が連携して、イベントやシンポジウムを開き、協同組合の価値や役割について、広くアピールしました。
また毎年7月第1土曜日は「国際協同組合デー」として、世界の協同組合が協同組合運動の発展を祝い、さらなる前進を誓い合う日となっています。これは1923年にICAが第1回を定めて以来続くもので、ICA設立100周年となった1995年には、国連の国際デーのひとつとして認定されました。
2016年に「協同組合の思想と実践」がユネスコの無形文化遺産に登録されました。政府間委員会は決定にあたり「協同組合は共通の利益と価値を通じてコミュニティづくりを行なうことができる組織であり、雇用の創出や高齢者支援から都市の活性化や再生可能エネルギープロジェクトまで、さまざまな社会的な問題への創意工夫あふれる解決策を編み出している」と評価しました。
これらはドイツからの申請によるものですが、地域的な限定はなく、協同組合が世界的な広がりをもち、今後も日々の現場で協同を発展させていくことが社会的に求められいることを確認するものです。
2017年の国連総会において、2019年~2028年を国連「家族農業の10年」とすることが決まりました。
「家族農業」とは、家族が経営する農業、林業、漁業・養殖、牧畜であり男女の家族労働力を主として用いて実施されるものとされ、規模の大小、法人・非法人、個別・組織経営は問わないとされています。世界の食料生産の8割以上は家族農業によって供給されており、食料主権の要として貧困・飢餓撲滅に果たしている役割が認められました。
採択によって国連加盟国には、食料安全保障確保と家族農業に関する施策を推進していくことが求められます。
世界では、8.2億人が飢餓に苦しみ、土地や種子、水などの自然資源をめぐって多国籍企業や国家による新たな囲い込みが起きています。日本でも農産物の貿易自由化や農業就業者の減少、高齢化による農業生産基盤の弱体化によって、食料自給率は低迷しており、家族農業を中心とした多様な農業・農村への支援・振興が重要になっています。
SDGsとは「Sustainable Development Goals(持続可能な開発目標)」の略称です。2015年に国連加盟193か国により「我々の世界を変革する:持続可能な開発のための2030アジェンダ」が全会一致で採択されました。貧困や飢餓の根絶、健康や教育の充実など持続維持可能な社会を築くため、このアジェンダ(行動計画)が掲げた17の目標や169のターゲットを「SDGs」と定め 、2016年から2030年の15年間で達成するために課題や実施計画がまとめられました。
協同組合との関わりでは、国連により「協同組合は平等と民主的参加の原則を保っている。協同組合は『誰も取り残さない』というSDGsの原則を体現している」とSDGsを達成するための重要なステークホルダーのひとつとして位置づけられました。日本でも、政府の「SDGs 実施指針」のなかに協同組合が明記されています。協同組合が「地域の一員」として地域社会の課題に積極的に関わり、貢献していくという視点がますます重要になります。