「流通改善ガイドライン」改訂案に関するパブリックコメントの提出について

 10月7日、文化連は「医療用医薬品の流通改善に向けて流通関係者が遵守すべきガイドライン」改訂案に関するパブリックコメントを提出しました。提出した意見は下記の10項目となります。
 本会では、8月11日、「医療用医薬品にかかる制度と流通に関する要望書」を厚労省医政局長、財務省主計局長、中央社会保険医療審議会薬価専門部会委員(診療側委員、公益委員)、医療用医薬品の流通改善に関する懇談会委員(診療側委員、公益委員)に送付するなど、公正・適正な医薬品交渉と制度の確保を求め要請活動を行なっております。引き続き、会員の要望に基づき、協同の力で薬価制度・医薬品流通・価格交渉等における制度課題に取り組んでいきます。

(参考)
「医療用医薬品の流通改善に向けて流通関係者が遵守すべきガイドライン」
改訂案に関する意見募集(パブリックコメント)の結果について (e-Govパブリック・コメント)

 

1. 一次売差マイナスの改善が進んでいないことを「経過」に明記すべきです。

改訂案では「(現行のとおり)」とありますが、一次売差マイナス等の改善がほとんど進んでいないことについて、改訂案における「経緯」として明確に触れるべきであると思います。この事実について、現行の文末の「…ところである。」の後に続けて、「しかしながら、製薬メーカーから卸への仕切価率が縮小せず4年連続で上昇し、割戻し率も縮小しておらず、多くの品目の仕切価水準が引上げとなっている」と修正(追加)をお願いします。
一次売差マイナス等の改善については、上記の「緊急提言」(平成19年9月)で第1番目に掲げていたものです。にもかかわらず、「医療用医薬品の流通改善に関する懇談会」(令和3年7月2日開催)において資料によって示されたとおり、仕切価率が縮小せず4年連続で上昇(平成28年94.2%→令和2年95.1%)し、割戻し率も縮小していないという実態となっています。
改訂する目的はこうした事実をきちんと書き込むことにあると考えます。

2. 流通経費等の負担の「当事者」とは「販売側のメーカー及び卸」とすべきです。

改訂案では「(現行のとおり)」とありますが、「流通経費等の負担」に関して、通常の流通における「当事者」とは販売側の製薬メーカー及び卸売業者のことを指すものと考えますので、その「当事者」に最終消費者である購買側を含むものと誤解されることのないよう、文中の「当事者間」ではなく、「製薬メーカー及び卸売業者の間」でと修正をお願いします。
通常の流通においては、流通経費を含めて設定された納入価について、購買側の医療機関等として卸売業者と自由・公正な価格交渉を行うという関係にあり、医療機関等は流通経費等の負担の当事者ではないと認識しています。
通常の流通を大きく超えるような頻回配送・急配といった特別の事情発生時における流通対応としてのサービスのコスト負担については、仕切価及び納入価設定における「流通経費等の負担」とは別のものとして切り離して協議・契約すべき性格のものと考えます。
こうした切り分けを明確にした議論としていかないと、仕切価及び納入価の設定が適正であるかどうかがあいまいなものとなってしまうと考えます。

3. 談合事件を起こした「販売側」の再発防止の責任を明確にすべきです。

改訂案では「流通関係者が一体となって」とありますが、今般の不当な取引制限は販売側の卸売業者による事件です。購買側を含めた流通関係者がいわば〝全体で等しく″「法令遵守の徹底と再発防止に取り組み」とする文言は、談合事件について販売側の反省や再発防止の責任をあいまいにするものであると考えます。今般の事件で「国民の信頼を回復していかなければならない」のは、公定薬価制度を歪めた販売側です。文中の「…今後、流通関係者が一体となって」ではなく、「…今後、販売にかかる流通関係者が一体となって」と修正をお願いします。
また、談合を二度と繰り返させないよう販売側の協調的な活動の監視を行政として徹底すべきであり、その指導にかかる表明を改訂案の中にぜひ記載いただくようお願いします。

4. 「割戻しの整理・縮小」については、その進捗を徹底させるために流改懇に対する適宜報告と、価格管理について行政による検証・評価が必要です。

改訂案では、割戻し(リベート)について、「整理・縮小を行う」ことが明記されましたが、文末の「…明確化すること。」の後に続けて、「製薬メーカーはその取り組み・改善状況について流通改善懇談会に定期的に報告するとともに、行政による検証・評価を受けること。」と修正(追加)をお願いします。
割戻し等の改善の取り組みの規模や進捗速度および個別の契約の内容については、製薬メーカーの自主性に任されていることから、進捗が停滞し不透明なまま温存されているという懸念が強くあります。
さらに、割戻し等が卸売業者に対して製薬メーカーによる事業活動制限・価格管理といった独占禁止法上の問題につながっていないかどうかの検証・評価を行政により行い、適宜メーカー別に公開する仕組みの創設を検討していただきたい。

5. メーカーと卸間の仕切価交渉の適正化は当事者に委ねるのではなく、不透明な価格管理体制にメスを入れるべきです。

改訂案では、製薬メーカーと卸の間の仕切価交渉(川上取引)の改善について、「メーカーと卸売業者との間」の協議に手放しで委ねるものとなっており、「十分に協議」や「なるべく早期」といった至極あいまいな表現となっています。
以下のように全面的に修正をお願いします。
「〇 製薬メーカーは、①卸売業者の事業活動制限・価格管理といった独占禁止法上の問題となる割戻し・アローアンスについては直ちに解消すること ②市場実勢価及び卸売業者の社会的役割に基づく流通コストを考慮しない仕切価設定を厳に慎むこと ③卸売業者の公正・適正な競争を阻害するようないわゆる卸1社流通のような取引先限定の行為をしないこと。」
「〇 卸売業者は、安定供給に必要なコストに基づく仕切価設定について、製薬メーカーとの間で公正・適正な価格交渉を進め、交渉が難航したりガイドラインの趣旨に沿わない交渉となっている事例については直ちに行政に報告すること。」

本コメントの1.の項のとおり、「医療用医薬品の流通改善に関する懇談会」(令和3年7月2日開催)において、製薬メーカーから卸売業者への仕切価率が縮小しておらず、一次売差問題が解消されていないことが明確になりました。
建値制のもとで製薬メーカーが圧倒的に優位な立場にあり、卸売業者に対する不透明な価格管理体制が厳然として存在することが、結果として卸売業者の低利益率の構造を生み、さらには談合事件等の遠因にもなっていた可能性も否定できません。
流通改善及び適正な公定薬価の設定を進める大前提として、製薬メーカーと卸売業者の間の仕切価交渉がそもそも成立しているのか、公正・対等な交渉環境にあるのかが問われます。実態と原因、早期の改善対策を明確にして、流改懇等の場において行政として実効的な指導と監視を強めていただきたい。

6. 「数量に応じた値引き」に関する記述は削除せず残すべきです。

改訂案では、価格交渉に関して[現行]の5)の文末にあった「(数量に応じた値引き等の特別な事情を除く)」の文言が削除されていますが、取引数量の多寡に応じたスケールメリットによる値引きが存在するのは、一般的な商行為としては当然であり、削除せず残すようお願いします。
「(数量に応じた値引き等の特別な事情を除く)」は、文中の「流通コストを考慮しない値引き交渉」とは別次元のものですが、改訂により削除してしまうことによって、自由・公正な価格交渉において、数量に応じた適正な値引きまで委縮させる危険性があると考えます。

7. 「不当廉売の禁止」に関する記述は、交渉の委縮や実質的な販売側の協調的行動につながる恐れがあり、相応の配慮をした表現とすべきです。

改訂案では、「不当廉売の禁止」の文言が入りましたが、これに該当するような交渉が頻繁に行われている実態はないものと思います。また、交渉において法の誤解や販売側による意図的な援用の懸念がありますので、以下のように全面的に修正をお願いします。
「供給に要する費用を著しく下回る対価で継続して供給することにより、他の業者の事業活動を困難にさせることがある場合には、独占禁止法上の不当廉売に該当する可能性があるが、販売側はその法的な正しい理解を深めることを怠ったまま、違反の実体や恐れがないにもかかわらず不当廉売の禁止を理由とした交渉や販売側の協調的行動を行うことは厳に慎むこと。」
法を正しく理解しないまま、交渉の委縮や販売側の実質的な協調的行動となる危険性が大きいこと、また、そもそも仕切価・割戻しの改善が停滞しているもとで、納入価について、何をもって「費用を著しく下回る対価」なのか、何をもって「他業者の事業活動を困難」にさせるのかが極めて認定しがたいこと―により、卸売業者と医療機関等の交渉における委縮効果が高く、自由・公正な交渉を困難にさせ市場実勢価格の高止まりを招く懸念があります。独占禁止法の一部条項のみを断片的に取り上げるような文言の採用にあたっては、交渉の萎縮を招かないよう十分配慮したていねいな表現とするようお願いします。

8. 「頻繁な価格交渉の改善」については、期中の再交渉を一律に否定せず柔軟な交渉に対する配慮をすべきです。

改訂案では、「当年度内は妥結価格の変更を原則行わないこと」「長期の契約を基本とすること」とありますが、「頻繁な価格交渉」の改善についてはガイドラインの規定を改訂するまでもなく、実態として当事者が努力し合い進めているところです。しかし、期中で再交渉を行う必要があり薬剤費財政の健全化につながるケースが多々あり、柔軟な運用が必要であると思われます。また、薬価の中間年改定は「頻繁な価格交渉」として最も負担増となっています。以下のように全面的に修正をお願いします。
「薬価の中間年改定実施による価格交渉の毎年発生は、卸売業者および購入側とも負担となっており、当事者双方が頻繁な価格交渉の改善・効率化や長期の契約に努力しているところであり、さらに進めることが望ましい。ただし、医療機関等購入側のみにペナルティのある未妥結減算制度の現状を踏まえるとともに、期中における薬価改定(再算定等)や同種医薬品の整理・フォーミュラリ策定のための薬剤選択の場合があること等を踏まえて、適正な市場実勢価格の形成を維持するため、必要に応じた期中交渉を柔軟に組み合わせることが認められるものとする。」
適正使用やフォーミュラリ策定のための薬剤選択は、医療の質を向上させるとともに薬剤費の削減にも寄与するものです。この取り組みにあたっては医療機関として効能・効果とともに経済性が重視され、卸との交渉活動には相応の時間と機会を要します。期中の再交渉を一律に否定せず、状況や事情に応じた配慮が必要であると考えます。
また、頻繁な価格交渉の負担増を問題にするならば、中間年改定が品目・範囲とも大規模になったことや、未妥結減算制度が医療機関にのみペナルティがあり交渉が長期化・頻繁になりやすいことの影響も大きく、未妥結減算制度の目的に反して上半期の妥結率の低下にもつながりかねず、この機会に制度の見直しをお願いします。

9. 後発医薬品の不祥事による供給不足にかかる「回収等に伴い生じる経費」については、メーカーの責任・負担を明確にすべきです。

改訂案では、医薬品の供給不足の問題に関連して、「回収等に伴い生じる経費については、当事者間で十分協議」とありますが、今般の後発医薬品メーカーの製造出荷にかかる不祥事による問題のことを指すものであり、その経費はメーカーの責任により負担するものと考えますので、文中の「…当事者間で十分協議すること。」ではなく、「…メーカーの責任で負担し当事者間で十分協議すること。」と修正をお願いします。
今般の不祥事は、医療機関の現場では切り替え作業、患者への説明等に膨大な時間と労力が費やされ、患者、医療機関、卸売業者に大きな混乱を引き起こした重大な背信行為であると考えます。このような事態が二度と起こらないよう、後発医薬品メーカーに対して、行政による製造管理体制の監視の徹底および必要な財政支援の継続を進めるべきであると考えます。

10. 「独占禁止法等の法令遵守」の「実効性の担保」は、研修の受講だけでなく、遵守と再発防止・改善のモニタリングと開示、報告が必要です。

改訂案では、「独占禁止法」「法令遵守」「研修の受講」等が明記されましたが、一般的に全ての取引当事者として括って「研修の受講」を上げるだけでは「実効性の担保」のためには全く不十分だと思われますので、文中の「このため」以降を、「このため、とりわけ、公定薬価制度を歪め国民の不信を招く談合事件を起こした卸売業者は、外部機関や社外取締役等による法令遵守と再発防止対策のモニタリングと開示を継続して行い流改懇に報告すること。同様に販売側として薬品メーカーは、卸売業者の事業活動制限・価格管理につながるような不透明な割戻しや仕切価の改善状況について継続して流改懇に報告すること。さらに全ての取引当事者は企業又は団体等が主催する研修を定期的に受講すること等により、法令等遵守の実効性の担保に努めること。」と修正をお願いします。
今般の談合事件は、定期的に卸売業者が独占禁止法の研修を実施していたとされていたにもかかわらず繰り返し起こったものであることを重く見るべきであると考えます。

>>「医療用医薬品の流通改善に向けて流通関係者が遵守すべきガイドライン」 改訂案に関するパブリックコメントの提出について